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レースのためだけに作られたスペシャルマシン ドゥカティ・スーパーバイク

 

「ドゥカティの技術を結集し、最高の2気筒バイクを」。

 

この合言葉の元に、イタリアバイク界の大御所・ドゥカティが作り上げたのが、1987年にリリースされた851 スーパーバイク(正式名称・851 Superbike)です。

 

ドゥカティが熟成を重ねてきた空冷エンジンではなく、スーパーバイク世界選手権参加資格を得るためだけに作られた逸話を持つドゥカティ初の水冷エンジン搭載車です。この初代スーパーバイク・851を皮切りとし、レース参戦の資格を得るホモロゲーションモデルとしての意味合いと同時に、勝つための様々な改良が施され現在に至ります。

 

今回は、レースでの実戦で磨きぬかれてきたドゥカティの高い技術力を示すスーパーバイクシリーズについてご紹介させて頂きます。

 

ドゥカティ初の水冷デスモ搭載マシン ~851スーパーバイク~

 

空冷4ストロークデスモエンジンを搭載したドゥカティの旗艦・750F1。

 

ドゥカティがこのマシンで数々の栄光をものにしてきたことはあまりにも有名ですが、1985年頃から開催が噂されていた「スーパーバイク選手権」の話題は、ドゥカティ技術陣にとって多くの試練となりました。

 

それまで空冷エンジンで名を馳せたドゥカティは、レースで名を挙げることで自社ブランドを売り出してきたメーカーであったためです。

 

スーパーバイク世界選手権は、レースに特化した専用車ではなく、一定の販売台数を記録した市販車両限定レースであり、ドゥカティはこの参加資格を得るために新モデルの開発に乗り出しました。世はすでに空冷エンジンの限界が見え始めた時期であり、既存の空冷デスモエンジンでは厳しい戦いに勝ち抜くことはできないと判断され、水冷エンジンの開発が始まりました。

 

750F1をベースに水冷化したテストモデルを元に研究を重ね、ドゥカティの名エンジニアであるマッシモ・ボルディによる「水冷+4バルブ+インジェクション構想」は、短期間で素晴らしい成果を挙げることになり、ドゥカティの新世代エンジンとして認められました。

 

このテストモデルのエンジンに手を加え、排気量851ccまで拡大したマシンが初代スーパーバイク・851 Superbikeです。

 

水冷4サイクルDOHC L型2気筒エンジン+フューエルインジェクションという組み合わせは、現在の多くのバイクに採用されており、まさしく時代を先取りした画期的な仕様と言えます。

 

この初代スーパーバイクは、公道仕様の「851 Superbike Strada」が限定300台、レース仕様の「851キット」車両が207台の少数生産となりました。

 

レースの参加資格を満たす必要最小限の生産のみが行われたモデルであるため、現存する車両は大変希少価値の高いモデルとして世界中のファンの間で取引されています。

 

3度目の挑戦で初の栄冠に ~888スーパーバイク~

 

スーパーバイク世界選手権での勝利を祈念し、「Superbike」の名を与えられた851でしたが、第1・第2回大会ではホンダ・VFR750(RC30)の前に苦杯を嘗めさせられる結果となりました。数々の大レースを制してきたドゥカティの矜持を示すため、851スーパーバイクに更なる戦闘力の強化が課せられることになりました。
試行錯誤の末、2代目スーパーバイクは888ccまでボアアップとなり、さらに1気筒に対し2インジェクター方式を採用。これにより、最大出力128ps/10,500rpmという前人未到のハイパワーを実現しました。

 

その他にも41mm径ショーワ製Fフォークなど、多くの改良を施した2代目スーパーバイクは、第3回大会で見事総合優勝を飾ります。

 

こうしてモンスターぶりを遺憾なく発揮した2代目スーパーバイクは、返す刀で第5回大会まで三連覇を果たし、ドゥカティ黄金期を飾る伝説的な名車としてその名を轟かせました。

 

クロモリフレームで驚異の軽量化を実現 ~916スーパーバイク~

 

スーパーバイク世界選手権三連覇という偉業を成し遂げた2代目スーパーバイク・888でしたが、その仕様は公道走行を念頭に置いた足枷付きとも言える状態でした。ここでドゥカティ技術陣は、より高い次元での走りを追求するため、これまでの851&888スーパーバイクからの脱却を目指すことを決意します。

 

その結果、91年の888スーパーバイクのリリースからわずか1年強となる93年、早くも3代目スーパーバイクとして916 Superbikeが正式発表となりました。その名の通り排気量は916ccまでアップされ、ホンダ・VFR750の代名詞であった片手持ちスイングアーム「プロアーム」を研究し、後のドゥカティスポーツモデルのアイコンとなる片手持ちスイングアーム方式を採用。

 

さらにクロームモリブデン鋼管パイプフレーム化し、フレーム重量わずか8kgという驚異的な軽量化を果たしました。

 

その結果、レース仕様の916スーパーバイクは、ワークスチーム「916CORSA」の車両で152kgを実現。

 

この数値はスーパーバイク世界選手権の最低重量制限値と同じで、この車体に130psを越えるハイパワーエンジンを搭載しているわけですから、結果は火を見るよりも明らかです。この3代目スーパーバイク・916は、鬼神の如き速さを武器に第6回大会を制したカワサキ・ZXR750を打ち破り栄冠を手にしました。3代目スーパーバイク916は、結果として第7・8・9回大会を連覇し、市販車ロードレースのチャンピオンメーカーとしての地位を不動のものとしました。

 

妥協なき作りで王座奪還へ ~996スーパーバイク~

 

デビュー当年で早くもチャンピオンマシンの座を射止めた916スーパーバイクは、その後も高い実績を築き上げていきましたが、ライバル各メーカーの技術力も高水準となりました。

 

その最たる例が第10回大会でのジョン・コシンスキーが駆るホンダ・RVFへの敗北です。レースで培われた技術をフィードバックすることで自社ブランドをアピールするドゥカティにとって、この敗北は非常に得るものがありました。その反省を活かし、王座奪還のための次世代スーパーバイクの開発に乗り出します。その結果生まれたのが、1998年に登場した4代目スーパーバイク・996 Superbikeです。

 

この4代目スーパーバイクの特徴は、ウェーバーマレリー製トリプルインジェクション+エンジンのショートストローク化で、市販車両とは思えないほど未知の新技術を採用した点に尽きます。マルケジーニ製の5本スポークアルミホイールによる軽量化など、書き切れないほどの改良を施し、全くの新モデルと言えるほど全てを刷新しました。

 

その英断は功を奏し、第11回大会ではカール・フォガティによって栄光のチェッカーフラグがもたらされました。従来のスーパーバイクよりも低中速域を重視し、平均時速を極力落とさないエンジン仕様が大きな勝因となりました。

 

この4代目スーパーバイクは、その後2000年に開催された第13回大会では、ホンダ・VTR1000に惜敗しましたが、翌年01年には再び王座への返り咲きを果たすなど、スーパーバイク史上屈指の名勝負を繰り広げました。

 

大人気映画に登場したもっとも高い知名度の5代目 ~スーパーバイク998~

 

2002年にリリースされた5代目スーパーバイク998は、前年までのスーパーバイク996のエンジンに、テスタストレッタシリンダーヘッドを採用。現在まで続く「テスタストレッタエンジン」を搭載した市販モデルの先駆けと言える存在です。既存のデスモエンジンよりもメカノイズを抑え、スムーズさとハイパワーを両立した仕様となっています。

 

このスーパーバイク998は、市販モデルで最高出力123ps/9,500rpm、ホモロゲーションモデルのスーパーバイク998Rは139psを叩き出し、ベースとなった996と比べても圧倒的なパワーとなっています。

 

装備面でも充実化が著しく、チタンコーティング化されたショーワ製43mm径Fフォーク・ドゥカティの伝統であるブレンボ製ブレーキシステム・非常に細かい調節が可能なオーリンズ製リアサスペンションなど、最高のパフォーマンスを発揮するために最高の装備が選り抜かれています。

 

このスーパーバイク998は、「998Matrix」という限定モデルが存在しています。車名が示す通り、映画「マトリックス」に登場したスーパーバイク996と同じ仕様で販売され、全世界で150台しかない貴重なモデルとなっています。ダークグリーンにペインティングされた車体のインパクトは強烈で、わざわざ外装一式を追加購入するカスタムファンもいるほど。

 

この5代目スーパーバイク998は、リリースの翌年である2003年には早々と後継モデル・スーパーバイク999がリリースされたことにより、ごく僅かな台数が流通しているのが現状です。スーパーバイクシリーズの中では、851&888の第一世代に次ぐ第二世代の最終モデルにあたり、世界中のドゥカティにとって憧れの一台と言える存在です。

 

名デザイナー・マッシモとの別れを迎えた第三世代 ~スーパーバイク999~

 

前モデルであるスーパーバイク998の登場からわずか1年で世代交代となった6代目・スーパーバイク999。レーシングマシンとしての色合いが非常に濃く現われたスーパーバイクシリーズは、どちらかと言えば乗り手を置き去りにすることすらあるマシンでした。その特徴はスーパーバイク998に搭載された「テスタストレッタエンジン」にも現われており、非常に乗り手を選ぶモデルの代表格でもありました。

 

レーシングマシンでありながら、ユーザーへ優しいスーパーバイク。
矛盾したコンセプトを掲げ、新たな試みが行われた6代目スーパーバイク999は、様々な波紋を起こした「いわく付き」モデルです。このスーパーバイク999から第三世代と認識されている理由は、全く別物と言えるほど様変わりしたデザインにあります。

 

長年ドゥカティのスポーツモデルをデザインしてきたマッシモ・タンブリーニが、カジバとの提携解消(事実上の決別)を機にカジバへ移籍し、ピエール・テルブランチによるデザインへと変わりました。

 

これにより、スーパーバイクシリーズのトレードマークであった薄型2灯式ヘッドライトから、縦2灯式プロジェクターライトへ変更。大きめに設けられたエアダクトや、大幅な肉抜き処理のコックピット、サイドビューから個性を主張するテスタエンジンなど、大幅なデザイン変更で賛否両論となりました。

 

これまでの歴代スーパーバイクシリーズと比べ、シティユース向きに作られた6代目スーパーバイク999でしたが、2007年に登場する7代目スーパーバイク1098に世代交代するまで低評価に甘んじることになった不遇の名車と言えます。

 

デザインの不評を受けて916系デザイン復活 ~スーパーバイク1098~

 

2007年にリリースされた7代目スーパーバイク1098は、第二世代のスーパーバイク916系デザインを復活させることになりました。916系デザインは今日現在でも根強い人気があり、それを復活させたこの7代目スーパーバイクは999とは比較にならないほど高い評価を受けました。

 

それまでスーパーバイクシリーズは、「スーパーバイク世界選手権」のレギュレーションに適合する仕様で製作されてきたのですが、今モデルではそのレギュレーションから著しく脱する1,098ccまでボアアップ。

 

99ccもの排気量オーバーとなり、プレス直後は「ドゥカティはSBK(スーパーバイク世界選手権の略称)から撤退する意向だ」という噂が世界規模で囁かれました。こうした風聞あってのことなのか、はたまたレギュレーション変更が事前にリークされていたのか、今となっては知る由もありませんが、それから日を置かずに2気筒エンジン搭載車の排気量上限は1,200ccまで引き上げられました。

 

こうした背景を鑑みると、この7代目スーパーバイクも「いわく付き」のモデルと言ってよいでしょう。

 

この7代目スーパーバイク1098最大の特徴は、新開発の「テスタストレッタ・エボルツィオーネ」エンジンです。前モデルでのテスタエンジンをベースに見直しがなされ、より効率のよいパワー伝達・出力を重視したハイスペックエンジンに仕上げられています。

 

この心臓を最大限に活かすことを前提として開発されており、ホモロゲーションモデルの「スーパーバイク1098R」、オーリンズ製サスペンション+電子制御システム「ドゥカティ・データ・アナライザ(DDA)」を搭載した「スーパーバイク1098S」、そしてベーシックモデルの「スーパーバイク1098」というラインナップで展開されました。

 

新車販売価格は、ベーシックモデルの「スーパーバイク1098」が約209万円、特別仕様車「スーパーバイク1098S」が約259万円(いずれも当時のレート換算)。

 

非常に格差のある価格設定から、ベーシックモデルの方が売れると思われましたが、プレミアム感のあるスーパーバイク1098Sの方が販売台数を伸ばし、逆転現象を起こしてしまいました。これは現在の中古バイク市場にも如実に現われており、良質な中古車両を探すならスーパーバイク1098Sの方が玉数が多いというのが実状です。

 

この7代目スーパーバイク1098も生産期間は短く、スーパーバイク世界選手権のレギュレーションに合わせる形で2009年にはモデルチェンジし、8代目へと世代交代を果たします。

 

8段階トラクションシステムを採用した8代目 ~スーパーバイク1198~

 

毎年リファインを行ってきたスーパーバイクシリーズは、2009年の「スーパーバイク1198」を持ってひとつの区切りを迎えました。その理由は、長年全力態勢で参戦してきた「スーパーバイク世界選手権」からの撤退と、「MotoGP」を主戦場とするべく開発された次世代スーパーバイク「1199パニガーレ」の誕生にあります。

 

排気量を1,198ccまでアップしたエンジンは、低中回転域のトルクを重視した出力特性になり、スーパーバイクシリーズ史上もっとも乗りやすい味付けとなりました。

 

しかし、この乗りやすさはいわゆる「デチューン」ではなく、この8代目スーパーバイク1198に採用された高性能トラクションシステム「ドゥカティ・トラクション・コントロール(DTC)」に拠るものです。

 

トラクションコントロールと言えば、多くて3つのモードというのが一般的な仕様ですが、スーパーバイク1198はなんと8段階式。

 

世界的にもこれほどの多段階システムは他になく、L型ツインデスモエンジン+乾式クラッチ+トレリスフレームのトリオという「ドゥカティズム」とも言える基本構成のままで高次元の走りを実現しています。これは敢えてオールドスタイルの2気筒エンジンに拘り、高い実績を残してきたドゥカティならではのこだわりと言えます。

 

この7代目スーパーバイク1198も前モデルと同じくホモロゲーションモデルの「スーパーバイク1198R」、前モデル同様の特別仕様車「スーパーバイク1198S」、ベーシックモデル「スーパーバイク1198」の3ラインナップで販売が行われ、販売台数比例も前モデルと同様です。

 

ただし、2009&10年モデルと2011年モデルでは大きな違いがあります。

 

それは、最終型となった2012年モデルにはDTCを始め、S&R用装備であったDDA、ドゥカティ・クイック・シフター(DQS)などを標準装備化。これまでのスーパーバイクシリーズファンへの感謝の表れとも言える豪華な仕様で、現行モデルの「パニガーレ1199」に匹敵するハイスペックマシンとなっています。

 

スーパーバイクシリーズの購入はじっくりと時間をかけることが重要!

 

初代スーパーバイク851から起算すると、実に8代を数えたスーパーバイクシリーズは、レースと共に歩み続けてきたドゥカティの顔とも言える特別な存在です。毎年恒例の年次改良を行い、レースで勝つために進化を続けたスーパーバイクシリーズも、今では中古車として購入する以外の入手方法がなくなってしまいました。

 

そんなスーパーバイクシリーズを是非とも我が物としたい!

 

そう考えるファンは多く、初代851から最終モデルの1198まで、スーパーバイクシリーズは中古バイク市場でも「売れるバイク」として評価されています。中古車購入にあたってご注意頂きたいのは、「L型ツインデスモエンジン+乾式クラッチ+トレリスフレーム」という共通点を持つシリーズでありながら、スーパーバイクシリーズはほぼ互換性がないモデルという点です。

 

全てのモデルが「スーパースポーツ」に位置付けられる以上、エンジンのクセなどは如何ともし難い面がありますが、選ぶ際は車両コンディションと同じレベルで自分の理想と照らし合わせることが大事です。

 

ざっくりと言わせて頂くとすれば、在りし日のチャンピオンマシンとしてのスーパーバイクが理想であれば、第一世代の851&888。美しいフォルムと時代の最先端であり続けた輝きに魅力を感じるなら第二世代の916系。

 

なるべく安くドゥカティのスーパースポーツを楽しみたいなら999。ディアベルやムルティストラーダと共通する「テスタエンジン」のハイパフォーマンスさに魅かれるなら1098&1198。こういった形で、ご自身の理想をよく考えた上で選定することが、スーパーバイクを購入する上での最重要ポイントです。

 

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